先日、ローランドさんが司会を務める番組で、ネスレ日本の元CEOで日本を代表するマーケターの高岡浩三さんとマーケティングについて色々とお話をさせてもらう機会を頂きました。
ZOOM出演とは言え、初めての番組出演だったので、むちゃくちゃ緊張してしまいました。。。
出演するには事前審査があり、自分の経歴や相談したい内容を番組ディレクターへ送る流れとなっており、自分のマーケティングの経験や相談内容が今回出演されるゲストの方とマッチしたので選考通過したのだと思われます。高岡さんは自分の憧れのマーケターの1人だったので、直接お話できる機会を頂けたのは本当にうれしい限りでした。
本番の数日前には、ディレクターの方や司会の奥井奈々さんと事前の打ち合わせがありました。奥井さんは事前の打ち合わせでは良い意味で番組での様子とギャップがなく、非常にやり取りがスムーズで、本当に仕事ができる方だなぁと、打合せ後に感動していました(笑)
高岡さんの話に戻りますが、高岡浩三さんを知らない方のために簡単に紹介させて頂きます。高岡さんはマーケティングの神様と呼ばれる世界的権威フィリップ・コトラー教授からも認められた世界的なマーケターでコトラー教授と共著も出版されています。高岡さんはネスレ時代に「キットカット」「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」「ネスカフェ アンバサダー」などの革新的なビジネスモデルをさまざま構築し、ネスレジャパンの大きな成長を牽引してこられました。
また、高岡さんはマーケティングを”イノベーション”の視点から捉えている稀有なマーケターであるとともに、イノベーションを個人の才能や運に依存せず、再現性のある方法論として確立され、多くのビジネスマンにとっても学ぶべきことが多い方だと感じています。
今回の番組出演の中で私のパートで学ばせて頂いたことは、
- アイディアの質を高めるための方法とは?
- マーケットリサーチはどこまで深堀るべきか?
- 組織の中でマーケターとして活躍するには?
の3点です。
アイディアの質を高めるための方法とは?
そもそもアイディアの質の高さとは何を意味しているのでしょうか?
それは大きな売上や大きな利益など、いわゆる「大きな成果」を生み出せるアイディアかどうかということだと言えます。
しかし、アイディアベースでいくら最高だと思われるアイディアを社内のメンバーだけで盛り上がったところでそれは妄想に過ぎないということです。なぜならば、実際に市場に製品やサービスを出してみないと実際に最高のアイディアだったのかどうかはわからないからです。であれば、さっさとテスト販売できる仕様だけ固めて市場の結果を早く知るべきだということです。
どんなに優れたマーケターでも打率が3割も当たればいい方だと言われています。高岡さん自身もネスレのキットカットが大きく売れるようになるまでに非常にたくさんの失敗を重ねてこられています。とにかくたくさん打席に立つこと、これは紛れもなく重要なことなのです。
この話の結論としては、市場に実際に出す前にアイディアとして優れているかどうかの評価をすることに意味はないということです。ほとんどの人がイマイチなアイディアだと思っても実際には市場から受け入れられる場合も実際には多々ありますし、その逆も然りだと言えます。
私もメーカーの製品開発メンバーとして携わっていた際に、多くの人が成功しないだろうと思われるアイディアをベースにした製品を市場に投下したところ、ヒット商品になったことがあったことから社内のその製品の見方が大きく変わった経験をしました。なので試せるアイディアは早く市場で試すべきだと非常に同意します。
ここでひとつ留意点があるとすれば、試す場所を間違えてはいけないということです。想定するターゲットがいる市場にそのテスト製品を投下しなければ、知るべき評価が得られないということです。百貨店のような高級店の来店客に訴求するような製品を、テスト販売をしやすいといった理由でスーパーのような量販店の店頭でテスト販売をしてはいけないということです。
マーケットリサーチはどこまで深堀るべきか?
マーケティングの実務をしていく上で、マーケットリサーチをすることは避けては通れません。というより最も重要な仕事のひとつだと言っても過言ではありません。マーケットリサーチでは、何をどうリサーチしていくのかというと、重要なことは2つ。それは市場の顧客の現状と、市場を取り巻く競合の現状の理解です。競合の状況はリサーチを進めていくと、ある程度、全体感は見えてくるのですが、顧客の状況については、深めればいくらでも深められる余地があり、どこまでやるべきなのかと思い悩む場合があります。
というのも、顧客の表面的なデータはリサーチ機関の提供するデータや、アンケートを実施してある程度はわかりますが、顧客のインサイトと呼ばれる、顧客本人自身が認識していないような行動の動機まで掴んでいこうとするとそれを探っていくための高度なインタビューや分析のスキルが必要とされ、それ相応のコストが必要となってくるからです。一方で顧客インサイトを踏まえて考えられた製品は顧客に受け入れらる可能性が高いので、マーケターとしては顧客の理解をどこまでも深めていきたいといった心理になってくる側面があるのです。
マーケティングリサーチにあまり予算を配分できないスタートアップや中小企業の視点から、どこまでマーケターの工数や資金をリサーチ業務に投下すべきなのか、といったことは多くのリサーチ業務に慣れていないマーケターの方々は悩まれる部分なのではないでしょうか。私自身もすごく悩んだ部分でした。
これに対して、高岡さんはイノベーションの視点から、明確な指針を示してくださいました。
それは、
- 現在の顧客が諦めている課題は何か?
- 未来の新しい現実から今後不足するものは何か?
といった視点から顧客を見つめることが大切であると。
現在の顧客が諦めている課題は、これまでの技術や資源では容易に解決が難しいことから、現状では未解決な課題のままになっていることが多いのですが、近年の技術の進化のスピードは凄まじいものがあるため一昔前よりもできることがたくさんある状況となっていることを認識すべきであると言われています。なので、何を解決すべきなのかといった「問い」を立てる力がこれからは重要なのだと言えます。
未来の新しい現実から今後不足するものは何か、といった視点から考える。このことについては、多くの人が解決に向けてまだチャレンジしていないことが多い領域なので、こちらの方がチャンスは大きいと言えるかもしれません。ポイントは新しい現実の定義について。これは、数年単位で過ぎ去るようなトレンドではなく、およそ10年以上は続くような新たな状況から生まれる常識や価値観などのことを指しています。
高岡さんのネスレでの事例を紹介します。未来の事を考えた時に、少子高齢化が進む世界で今後不足するものは何かといった視点から、革新的なビジネスモデルを構築されています。それは、住まいの離れた高齢の親御さんの状況を子供が定期的に簡単に確認できるようしにしたといったニーズを満たすサービスです。具体的には、ネスカフェコーヒーメーカーの機能にコーヒーを作るたびに、コーヒーを作ったことを子供に通知できる仕組みを取り入れ、こどもが親御さんのコーヒーを飲む頻度を把握することで、いつも元気で暮らしているかを確認できるというものです。
組織の中でマーケターとして活躍するには?
高岡さんは、ネスレ日本に入社され、仕事の成果を出し続け、段階的にネスレ日本のCEOにまで上り詰めた方です。なので、組織内で働くマーケターとして学べることが多々あるはずなのです。
まず組織の中でマーケターがぶつかる壁としてよくあることのひとつは、試してみたいとっておきのアイディアを思いつき、経営層や上長に提案するも、却下されテストすらできないということです。絶対上手くいきそうなのにと思っても、試すことすらできないのは辛いものです。
この対応策は、自分の権限の中でこっそりと試す。成功事例を作ってから提案するというものです。
結果が既に出ているものを経営層や上長が却下することは容易ではありません。このようにして結果をどんどん出していくと自分の裁量をどんどん高めることができます。その結果、勝手にいろいろとテストできるので成功事例を生み出せる確率が高まるといった好循環が生み出されます。これはマーケターだけでなく多くのビジネスパーソンが参考にできる部分ではないでしょうか?
高岡さんと私の共通点は、互いに食品業界出身だったことから、食品業界での勝ち筋を見つけていくための具体的なアイディアもいくつか教えて頂け、非常に有意義な機会となりました。
記事のタイトルにあるローランドさんの話には全く触れてきませんでしたが(笑)、ローランドさんもやっぱりすごいなと思う部分がたくさんありました。マーケーターとして活動されているわけではないのですが、一流マーケーターの思考に非常に近いものを感じました。特にセルフブランディングの話は本当に参考になる部分が多く、自身のブランドを構築されるために意識してきたことを多々教えて頂けたのはとても学びになりました。ローランドさんからのお話はまた別の機会で執筆できればと思います。
本日はここまでです。目を通してくださった方には感謝です!